米の天敵


多くの農家では病気になってしまった稲穂に真っ白な粉末の殺菌剤で消毒をしていたのは随分昔のことでした。農薬の害よりも病気を克服することに重きが置かれていました。
もうそんな光景を見なくなりましたが、最近では新たな二つの敵が現れました。
一つはカメムシです。いま田では稲穂が日に日に頭を下げていよいよ実りの最終の仕上げの時期です。米粒が甘くてミルクのように柔らかくて美味しいのでしょう。カメムシは夜には畦の草の中に棲んでいて、昼になると畦から7・8メートル田の中に出てきて穂を食べます。食べられた稲穂は米粒が黒くなります。カメムシの唾液で酸化して黒くなるのです。黒くなった米がいくつか炊飯器の中にあっても食味に影響することはありませんが、白いご飯に黒い異物を入れたまま茶碗によそうのはあまり気分の良いものではありません。多くの農家ではこのカメムシを駆除するために農薬を散布しています。ヘリコプターをラジコンで飛ばして、両サイドにつり下げられたタンクに入れた薬品を8メートル上から散布してカメムシを殺しています。
 私は、農薬を使いません。その代わりにカメムシや色の付いてしまった着色米を光学器械・色彩選別機で選別しています。色彩選別機は高速で走り落下する米を蛍光灯で照射し一粒の米粒に1000分の3以上の色の付いた物があると、コンプレッサーで圧縮された空気で先の細いノズルから噴出する空気を打ち込んで、一瞬のうちに排除しています。これが私の大切な選別ツールです。
もう一つの天敵は文字通り、乳白米です。
乳白米は米の中に白くなっている米粒のことです。餅米が混じっているように見えますが、未騰熟米です。これはなぜできるか、昼の高温が障害となって夜に水の温度の下がらないことが高温障害となって稲を疲れさせて、籾はできるのですが中は白いままなのです。これには夜に冷たい水を入れて掛け流しをして土を冷やし、根を休めてやるのが解決の方法です。私の圃場には有り難いことに冷たい水が入ります。毎晩寝る前に田を見に行き、水口を開けてゆっくり田に水を入れます。乳白米も色彩選別機で排除することができます。
カメムシと乳白米、いずれも暑くなっている気候と密接につながっています。
天空のほほえみ舎では夜は半袖では寒いくらい気温が下がります。
自然のクーラーで健康な稲穂が育っています。
毎晩田に出ていく時は、心が弾みます。
待っている米たちに喋りながら夜の冷たい水を贈っています。
水を入れる時には必ず話し掛けています。
植物には耳がある、この話は次回にしましょう。